ゲイリー助川エッセイ集

気まぐれにエッセイを書き綴ります♪

あいうえおエッセイ 「か」―噛み付く人

 「噛み付く人」と聞くと我々プロレスファンは相手の額に噛み付くレスラーを思い浮かべるわけで、特にオールドファンであれば真っ先に「吸血鬼」といわれたフレッドブラッシーというレスラーを思い浮かべるはずである。レスラーの額に噛みついてダラダラと流れ落ちる鮮血がテレビに放映されて、見ていた11人のご老人がショック死したという話だ。

 フレッドブラッシーは昔のレスラーなので僕も実際には見たことがなくて、何故に知ってるかといえば、小学低学年のときに、近所のお兄ちゃんにもらった「プロレス入門」なる本を来る日も来る日も食い入るように眺めていたからだ。そこでこの吸血鬼フレッドブラッシーが載っていたのである。低学年と小さかったので単純に「怖い」という印象が強かったのでよく覚えている。でも今では、噛み付きレスラーはたくさんいて、額から血を流す光景も普通になった。

 それにしても、額に噛み付くという反則技は本気でやってしまうとかなりの激痛だと思う。なんだかんだで毎日食べ物を咀嚼している以上、歯というのはかなり丈夫だ。それで額を噛み付かれたらたまったもんじゃない。ちなみにハードコアプロレスを標榜とする大日本プロレスは噛み付いて額が鮮血で赤くなった箇所にレモンの汁を塗りたぐったりする。まさに「傷口に塩を塗る」とはこのことで、やられたレスラーは足をバタバタさせながら悶絶している。えげつない光景だ。

 さて、前置きは長くなったが、噛み付く人というのはレスラーだけではない。人の言動や行動に噛み付いてくる人というのはざっと世間を見渡してもかなりの数にのぼるだろう。

今では安倍総理他、与党の言動に民主党が毎回噛み付いてるのがテレビで見られるが、あの噛み付き方というのは世の噛み付きたい人にとってはなかなか参考になるだろう。とにかくなりふり構わず噛み付いてくる。総理の対応に問題があることも事実だが、かなり醜い噛み付きも見受けられる。ああ言えばこう言うのだ。是非とも参考に「してもらいたくない」もんである。

 ところで、この噛み付く人については敵に噛み付くだけでなく味方に噛み付く人も見受けられるから困ったものだ。いや、むしろ味方のほうが噛み付いてくることが多いように思う。味方で特に噛み付かれると厄介なのが上司という類である。上司にも色んな方々がいるが、自分の感情を最優先する上司なんかは特にこの傾向にあるだろう。ロジックなんてなんのその、仕事を果たす目的よりも「オレ」の指示に従ってるかどうかに沿ってあれやこれや指示やら文句をグダグダと言い出す。部下の一挙手一投足に目を光らせ、何かあればすぐに噛み付いてくる。それこそ「スッポンの〇〇」と称される上司なんてゴロゴロいるだろう。プロレスでいうと(またプロレスや)、タッグマッチで、リング内でボロボロにされたレスラーがようやく味方にタッチしようとしたその手を竹刀で叩かれるようなものだ。そうなるともう完全にボロ雑巾状態である。でもこんな敵から味方から毎日毎日ボコボコに噛みつかれている部下というのは本当に大勢いる。池乃めだか師匠みたいに袋叩きされた後に「よーし今日はこのくらいにしといたろ」なんて言えたらいいが言えるわけもない。心が疲弊していくだけである。気の毒な話だ。

 毎日噛みつかれていると心が強くなるのは事実だ。逆に普段噛み付いている人間が不意に噛みつかれたりするとうろたえたりする。そう考えると普段から噛み付いている人というのは結局は周りからも見放され、いつか自分が額から血を流すことになるんだろう。ということは生活している限り、ほとんどの人が噛みつかれて額から血を流しているわけだ。それならばせめてレモン汁を塗りたぐるのだけはやめてほしいと思う。