ゲイリー助川エッセイ集

気まぐれにエッセイを書き綴ります♪

あいうえおエッセイ 「く」―癖者

 相撲の世界で「技のデパート」といえば舞の海であるが、相撲関係なく「癖のデパート」といえば僕のことである。自分でわかっている癖からわかっていない癖まで数えたらキリがない。癖というのは「なくて七癖」と言われるように誰にでもあるものだが、とりわけ僕の場合は癖の質がなかなか「上質」であって非常に厄介だったりする。なので嫁さんもいつか家でしか見せられない癖が外でご披露されるのではないかとヒヤヒヤしている。それがお披露目された暁には警察から職務質問されているか、変質者として皆から避けられるに違いない。

 癖というのはずっと同じ癖が続くというのはあまりない気がする。その時々の気分や環境、原因不明な要素などによって発生しては消え、変化したりしていくものではないだろうか。

 僕の場合は小学低学年のときは首をクネクネ動かす癖があって、母親から「ビート」と言われていた。ビートたけしの癖そのままだったわけで、我が子を「ビート」と呼ぶとはなかなかだと思うが、これは本気で直したいと思ってそう言っていたのか、からかっていたのかは定かではない。ただ、言われている当の本人は満更でもなかったのでなかなか治らなかった記憶がある。その他、両指をクネクネ絡ませる癖があってこれはクラス中で真似されてなかなか恥ずかしい思いをした。

 今でも指をポキポキ鳴らしたり、薬指の爪を噛んだりほじったり、右足の親指や顎の骨をコキンと鳴らしたり、鼻をつまんだり、目を大きく広げてから睨むように萎めたり、これはほんの一部でしかなくてその他にももうたくさんある。とりわけ薬指の爪の部分をほじくる癖については30年程続いていて、歴史のある木の年輪のように薬指の爪だけは右も左もかなりの深爪になってしまった。

それと、今思い出したが、僕は札幌に住んでいた時、積もっている雪に持っている傘をザクザク刺しながら歩く癖があった。あの「ザクッ」と入っていく感触と音が好きでやっていたのだが、ハタからみたら完全に変質者である。当時の僕は30歳前後。よく職務質問されなかったものだ。

 僕も今44歳になって、いつまで生きるかわからないが、あと40年程経って、もし認知症などになって理性もへったくれもなくなってしまったらおそらく癖という癖のオンパレードになるだろう。トイ・ストーリーのおもちゃが一斉に動くように、僕の癖も一斉にお披露目されるかもしれない。施設を抜け出し、目を大きく見開いたと思ったらそこら中を睨みつけ、薬指をイジり、たまにポキポキ指や顎の骨を鳴らし、ときに立ち止まって右足の親指をくるくる回しながらポキポキ鳴る音に満足し、傘をザクザク積もった雪に刺しながら歩いている。そんな完全なる変質者としてのクソジジイになっていることだろう。

 そうなったら癖の多い「癖者」だけでなく、「曲者」として周りの人達をイライラさせているにちがいない。同じクセでもなるだけ「曲者」にはなりたくないなぁと思う。