ゲイリー助川エッセイ集

気まぐれにエッセイを書き綴ります♪

女子プロレスラー木村花選手逝去について<前編>

 今後、僕が真面目なことを書くときはあまりよろしくないことが起こったときだと思ったほうがいいのかもしれない。今回非常に残念なことが起こってしまった。

 女子プロレスラー木村花選手が死去したというニュースが飛び込んできて、プロレスファンだけでなくテラスハウスの視聴者も唖然としたに違いない。謹んでお悔やみ申し上げたいと思う。

 今回は、今現在の情報と僕の推測などを含めた著述となるので、誤りがあるかもしれないが、そこはご了承いただきたい。また、前編後編と分けて、前編はプロレスラーという視点から、後編はSNSということを焦点に綴っていこうと思う。また、僕はテラスハウスという番組を観たことがないことも付け加えておきたい。

 まずはプロレスをあまり知らない人のためにプロレスの仕組みについて簡単に書いていこうと思う。ただし、ここではプロレスの競技自体のルールは書かないのでご了承願いたい。

 プロレスは格闘技であると同時に興行であるため、お客さんがいてなんぼの世界である。多くのお客さんに支持され、スポンサーがつき、テレビで放映されれば放映権料が入ってくる。客商売なので注目されればされるほど可能性が広がる世界だ。

プロレス団体によって色んなコンセプトがあるが、普通に肉体と肉体がぶつかり合うプロレスだけでは面白くなくて、そこにファンが興奮するようなストーリー性をもたせることが主流となっている。そのストーリーを作るうえで必要なのが「悪役」、つまりは「ヒール」といわれる存在だ。

「正義」対「悪」という図式―

時代劇も戦隊モノもそう、常にというわけではないが、戦いというところには正義と悪があり、正義が悪をなぎ倒す姿に人は喝采し、尊敬し、歓喜に浸るわけである。

 そして、ことプロレスにいたってはこの「ヒール」という役割が非常に重要であって、「ヒール」の仕事の出来不出来で「正義」と称される正規軍が引き立てられるかどうかが決まってくる。「ヒール」がさっぱり駄目なら正規軍も引き立てられないので、そうなるとストーリー的にもかなりつまらないものになってしまう。つまりは「ヒール」が仕事のできない「ヒール」であれば団体そのものの経営にも影響してしまうのだ。だから正規軍が引き立てられるようにするには「ヒール」は徹底的に仕事のできる「悪」であったほうがいいわけだ。

 ここで同じ興行でも例えば、舞台であったり映画を例にとると、その場では悪役として振る舞っていても舞台を降りれば悪役とは離れて普段の俳優さんに戻れてしまう。自分の舞台のPRもいつも通りのさわやかな姿で「悪役をやります」と言えばそれでいい。

 ところがプロレスというのは独特の世界で、悪役は普段から悪役である必要があるのだ。普段から悪者であるからこそ本場のプロレスも盛り上がる。全てがプロレスにつながっていくようになっているのだ。

 古くはダンプ松本ブル中野北斗晶もリング同様、公の場では悪に徹した。バラエティー番組に出ても共演者をボコボコにして悪事の限りを尽くした。プロレスに興味のない人までもをダンプ松本=悪という図式にする。これがプロレスラーのヒールとしての役目なんである。

 さて、僕はここで大きな疑問に直面するわけだが、木村選手が所属していたプロレス団体「スターダム」はなぜ彼女をテラスハウスという番組に出場させたのかだ。情報によればスターダム側が木村選手の名を広めたいために出したとの報道もある。名前を売るにはテラスハウスに出すのが手っ取り早いということだ。ただ、それにしても木村選手は絶対に出してはいけなかったのではないか。なぜなら彼女の役割は「ヒール」だからだ。

「ヒール」は公の場ではヒールでなければいけないことは先程説明したが、そんな彼女がヒールを捨てて「女の子」になってしまうような番組に出てしまうことにスターダムは何も思わなかったのだろうか。

 いくらヒールとはいえ、公の場では悪事を振る舞っても私生活は女の子になる。これはダンプ松本だろうがブル中野だろうが同じだ。余談だが、この二人は正規軍になりたくてレスラーになったのも関わらず、会社側から悪役になることを命じられ、泣く泣く悪役になったという。ブル中野も頭の半分をスキンヘッドにしたときは号泣したそうだ。家に帰ると鏡に写るのは半分スキンヘッドの自分なわけで女の子を捨ててしまった自分がいるわけだ。辛かっただろうと思う。ただそれでも公の場では絶対に女の子を見せることはなかった。「ヒール」を貫き通したのだ。本物のプロである。

 今回の木村花選手のテラスハウス出演はいわばダンプ松本が出演するようなもので、女の子になったダンプなんて誰も見たくない。そしてそんな悪役がいるプロレス団体なんて迫力も面白みもないのだ。

 そう考えると「スターダム」が木村選手を出演させた意図が全く見えない。百歩譲って、スターダムという団体をアピールするなら正規軍の選手を出演させればよかったのではないだろうか。そして男性との絡みに対して噛み付く木村花でよかったのではないかと思う。また、木村選手自身を売り出したいのであれば、「プロレスラー木村花」を売り出したかったのか、「人間、木村花」を売り出したかったのかが全然分からない。プロレスラー木村花を売り出したいんであれば、テラスハウスだろうが徹底的に悪役にするべきだった。共演者全員張り倒すくらいでないといけなかったのだ。

 今回の木村選手の死去はプロレス界にとって大きな損失だ。彼女が将来、女子プロレス界を牽引していた可能性は非常に高い。プロレスはバカではできないというのは本当の話で、とりわけ「ヒール」はどうすれば正規軍が引き立つか、観客に悪の自分を見せていくか、どうすれば盛り上がるのかなど考えていく必要がある。そういった上で木村選手はパフォーマーとしても十分にレベルの高い選手だった。本当に惜しい選手がいなくなってしまった。残念で悔しくて仕方がない。

後編はSNSについて書いていこうと思う。