ゲイリー助川エッセイ集

気まぐれにエッセイを書き綴ります♪

あいうえおエッセイ 「せ」―選手宣誓

 人生で一度だけ選手宣誓をしたことがある。

これは拝命されたというような高尚なものではなくて、くじ引きで泣く泣く「させられてしまった」のだ。

 僕は小学5年のとき、所属していたソフトボールチームのキャプテンになった。これもまた拝命されたというようなものではなくて、僕ともう一人以外は全て4年生で入団が遅かった僕は自動的にBチームに所属となった。年功序列で自然とそのBチームのキャプテンになったわけである。

 市長杯大会に出るのに、Bチームキャプテンの僕とAチームのキャプテン、それぞれの監督と4人で抽選会場に向かった。

 抽選は麻雀牌くらいの大きさの木でできたものがズラっと一列に並んでいて、その裏に数字が入れられている。この番号がそのままトーナメント表にある番号なわけだ。従って1か2を引くと第1試合となって、開会式直後にいきなり試合である。しかも1を引いてしまうと選手宣誓というオプションまでついてきてしまうのだ。

 正直、僕のチームはどこと対戦しようがほぼ勝ち目はない。そうなると「1を引かない」ということだけが全ての焦点となっていった。

 僕のチームが呼ばれて、壇上に上がるとズラッと並ぶ駒を眺め、真ん中が怪しいからとやや右側の駒を取った。そして裏の数字を見て血の気が引いたわけである。

 帰ってからは監督が考えた選手宣誓をただひたすら暗記することにした。なんといっても翌朝が大会なんである。素振りをして調整とかそんなことはどうでもよかった。

 そして大会を迎えたわけだが、寸分を開けることなくただひたすら頭の中では選手宣誓の文言が流れていて、朝飯も会場に向かう車の中でも、キャッチボールのときも、頭の中は選手宣誓だった。

 アクシデントが起こったのはいよいよこの後に選手宣誓をするといった場面だった。市長杯というだけに市長が挨拶をする。話の内容そっちのけで選手宣誓を呟いていたのが、急に真ん中の部分が抜けてしまった。そして思い出せなくなってしまったのだ。そうして思い出せないまま、ついに選手宣誓を迎えてしまったのである。

 あのときの心境たるや、腹も括れず、覚悟も決まらず、只々うろたえるキャプテンがそこにいて、弱虫意気地なしの自分が全面に出てしまった。そして選手宣誓が始まり、問題の真ん中のフレーズまで来てしまった。やはりというか、僕は無口になった。思い出せなかったのだ。急に黙りだしたので、周りがざわつき始めた。それで思い出せなく、真ん中を抜いたまま最後の覚えているフレーズを言って締めくくった。

 今考えると真ん中が抜けた宣誓は非常に恥ずかしいものだった。

「宣誓!僕たちは・・・頑張ります」

みたいな宣誓だ。間違ってはいないが

「それだけか」

と言われても仕方のない内容スカスカの宣誓であってそんな内容に一日がかりで頭を悩ませていたのだ。

 結局、開会式後の試合で、ホームベースのかなり手前のボールを空振りして三振した。選手宣誓のせいにするあたりの気質は今も変わらずそのままである。