ゲイリー助川エッセイ集

気まぐれにエッセイを書き綴ります♪

あいうえおエッセイ 「た」―立ち飲み

 立ち飲みの素晴らしさに気づいたのは今から8年くらい前の話で、当時は大阪は梅田のど真ん中に職場があったので、梅田地下街を中心に安く飲める立ち飲み屋が何軒かあった。

 そんな中でも、今は改装してなくなってしまったが、ホワイティうめだにあった「七津屋」によく足を運んだ。

 ここのいいところは何と言ってもその安さで、生大が390円。生大は700mlなので、これ一杯で缶ビール2本分になる。これを2杯とアテに180円のゲソ焼きを注文しても1,000円にならない。せんべろにはうってつけのお店だった。

 立ち飲みは居酒屋のように腰を据えて飲むのとは違って気軽に飲める。居酒屋のような何かに気遣うこともなく、好きなときに来て好きなときに帰る。それでいて安くて旨くて話が盛り上がるなら、そのほうが気分も財布も軽くていい。

 僕は大体が同僚と飲みに来ていたが、仕事が終わるのが遅くて、大体閉店1時間前くらいに訪れていた。1時間くらいだと居酒屋なら踏みとどまるところでも「七津屋いこ」の一言で簡単に足が向く。それで、このお決まりのせんべろコースで張り詰めていた神経の角をトロトロと溶かしていたわけだ。ただ、ちょうど話が盛り上がった段階で閉店時間が来てしまうので、そうなると盛り上がった火種を消すのはなかなか難しい。結局場所を換えての「延長線」が始まるわけだ。

 延長線の舞台は大阪駅前の歩道橋の階段だった。コンビニで買った缶ビールを片手に終電まで1時間くらい飲んだくれる。それでも居酒屋で飲むよりはかなりの安上がりで楽しめた。だから立ち飲みバンザイだったわけである。

 ところで、この立ち飲みを覚えてしまってからひとつだけ不都合なことが起こった。宴会がある前に立ち飲みで喉を潤すという変な習慣がついてしまったのだ。宴会まで30分あるとなれば、待つのも面倒くさいし、七津屋に行こうというわけだ。でもこれはほんの序の口で、ついに宴会が始まる21時まで待てない人のために0.5次会なるものを作った。

 僕はサービス業だったので、シフト制で早番、遅番がある。宴会は全員参加なので、遅番が終わる時間を目処に設定される。だから21時なわけだ。そうなると18時や19時に終わる早番連中がウズウズするわけで、そんな僕を含めた連中で0.5次会を催した。そのうち、この0.5次会自体に人が集まるようになってしまったのだ。

 でもこれがいけなかった。立ち飲みですでにベロンベロンになってしまうわけで、本ちゃんの宴会が始まる頃には僕を含めて0.5次会に参加したメンバーがすっかり出来上がってしまっているのである。

 そうなるともう宴会の内容なんてさっぱり覚えていないわけで、翌日出勤するときは自己嫌悪と「何かしでかしていないか」でドキドキしながら出勤することになる。

「昨日ですか?日本酒をストローで啜ってましたよ」

「ハリセンでガンガン頭しばいてました」

などと言われてその日一日はがっつりと凹みながら仕事をすることになってしまうのだ。

こういった宴会の内容をさっぱり覚えていない「記憶にございません宴会」をなくすために、ついに0.5次会は縮小となった。ジョッキは2杯まで、その他は飲まないと決めて、きちんと記憶のあるうちに宴会へと突入することにしたのだ。

 そうして記憶のあるうちに宴会に突入してどうなったのかというと、結局は相変わらず次の日にドキドキしながら出勤していたのである。酒飲みなんてそんなものだ。