内視鏡検査は突然に
もう数年も前からになるが、健康診断で必ず便潜血に引っかかっている。
2度採取した便のどちらか一方が引っかかっていて、どういうわけかどちらも駄目ということはない。便潜血で引っかかっている理由は明白で、完全なる痔である。
ネットで調べてみると、こうして痔だと勝手に判断して検査にいかずに放ったらかしたら実はガンだったというケースもあるみたいだ。でも僕はそれでも完全な痔だと断言できた。何故なら肛門が切れて鮮血が落ちていたからだ。
そんな僕が急に内視鏡検査を受けなくてはならなくなった。
ある日、保険の見直しをしようということになって無駄な保険を解約していった。解約した代わりに医療保険とガン保険に入ろうということになったのである。そのがん保険に入るにあたって健康診断の結果を提示しなくてはならなかったのだ。保険会社側も当然便潜血に引っかかっていることについてはツッコミが入ってくる。結局、診断した結果が必要とのことで渋々検査を受けることにしたのだ。
病院にいくと6畳くらいの部屋に通されて、そこには椅子とテーブルが壁側につけられていた。テーブルにはビニール製の下剤とコップが置かれている。すでに2人の年配の女性が壁に向かって下剤と戦っていた。
「これを2時間かけて飲んでください。便が透明になったら内視鏡検査始めます」
こういった内視鏡検査の下剤を飲んだ経験のある方ならおわかりだと思うが、あの塩水を飲んでいるような苦さというのはたまらない。しかも2リットルもある。紙コップに注いで一口飲む度に「ふぅ〜」という溜息まじりの苦痛の吐息が発せられ、ビールを飲んだ時の快活の「ふぅ〜」とはわけがちがった。
それにしてもこの6畳ほどの空間がなんとも罰を受けている罪人のようで、それも苦痛であった。扉は開けられているものの、居残りで勉強させられている生徒さながら廊下を歩く方々のこちらに向ける目が嘲笑交じりのそれに見えてしまう。2リットルなどビールであれば、30分あれば飲みきれるのが、下剤は2時間を少しオーバーするくらい時間かかった。
苦痛の2リットルが終了した僕はお祝いにビールが飲みたい気分だった。でも本番はこれからで内視鏡検査がなされる部屋に通された。台に乗って横たわるとパンツを下ろして膝を曲げる。ここまで来るともう恥ずかしさもない。検査する先生も肛門をまじまじと見ることもなくチューブを差し込んでいった。
カメラに映る自分の腸はなかなかキレイなもので、ただ気になるのは時々止まって「パシャ」と画像を撮る音だ。その度に何か悪い物体が発見されたのではないかとヒヤヒヤしてしまう。そしてカメラが中に入り込んでいくときの腹圧。これがなかなかに気持ち悪かった。小学6年生のときに味わった浣腸とはまた違った気持ち悪さである。
結局診断の末、良性のポリープが見つかり、手術して切除することになった。切除した後の最初の健康診断の結果は便潜血が見当たらず。それでも僕はたまたま痔だったと信じている。
こうして僕はこれまで4度おしりをさらけ出したが、意外と行ってみると事前の恥ずかしさも最後には消えてしまっている。ただ、もう浣腸だけはされたくない。それなら2リットルの塩水のほうがマシだ。いずれにしても肛門科をクリアした僕はもう病院でお尻をさらけ出すのは怖くない。あと残す最大の難関は泌尿器科だ。ここには何とか行かないようにしたい。
「あの・・・・見ないまま診察してもらえますか」などと言ってしまうかもしれない。