ゲイリー助川エッセイ集

気まぐれにエッセイを書き綴ります♪

あいうえおエッセイ 「え」―宴会はクソ上司とともに

 仕事は平社員でも宴会は部長ー

 いわゆる宴会部長と言われる人たちがいるが、僕もその類の人間で、宴会を開催するときは自然と力が入った。とにかくその日は仕事中でも仕事のことなんて考えていない。一日中宴会のことを考えているのだ。「日頃から仕事のことなんて考えてないやろ?」と言われるとそれはそれで正解であるが、宴会の日は脳みその割合が全然違う。普段は「仕事3、遊び7」であっても宴会日は「仕事0.5、宴会9.5」くらいになる。なので仕事的にはその日一日さっぱり使いものにならない。

 そうして夜に宴会が始まるわけだが、宴会の基本として圧倒的に気の合う人間と宴会するのがいい。アホな話に花を咲かせては、酔いも手伝って宴会中はずっと笑っていられる。逆に一番最悪なのが気の合わない上司が出席する宴会である。

 僕は18年間同じ会社に勤務していたけれども、この会社では繁忙期が始まる前にはホテルを貸し切っての「頑張ろう会」なる宴会が催されていた。会場には100人弱の従業員が集まるというビッグイベントだ。社長の挨拶、役員の挨拶などがあって、部長の乾杯音頭で宴会が始まる。しばらくすると部下たちがタイミングを見計らっては上司に酒を注ぎに回る。気がつけば上司の席には酒を注ごうとする部下がずらっと並んでいるという、サイン会を待つファンさながらの図が見られた。

 これだけでもうんざりであるが、大人数ということもあってまだ誤魔化しがきく。問題はその後の二次会だ。どういうわけか半強制で参加しなければいけないという懲役刑のような二次会だった。よくあるチェーン店の居酒屋で催されるが、この二次会ですっかり出来上がった上司の「クソ」のような話に付き合わなければならない。

「あのな、まあアレやわ。悔しくないんかっちゅう話や。せやろ。売上下がってんねん。わかるよな。俺んときはな・・・」

「もっとな、お前がしっかりせんとアカンねん。今回の繁忙期はな。お前にかかってんねん。今のままでは心配やわな。最近ちょっと気が抜けてるんちゃうか」

気が抜けてるなんて言ったらずっと気が抜けてる。

こんな類のことを終電が来るまで聞かされる。酒が旨いはずがない。

こうした自尊心の低い人間が上司になってしまうのはよくある話で、とかく相手の短所や欠点ばかりに目がいってそこを攻めていく。これがプロレスであるとなかなか有効な攻撃であるが、部下にこの攻撃をしてしまうとプロレス同様大きなダメージは与えることができるが、その見返りは攻撃したダメージの数倍の軽蔑とヒンシュクとなって返ってくる。仕事もできて尊敬できる上司が言うには多少我慢できるところもあるが、大体がこうして何だかんだという上司に限ってさっぱり仕事をしないものだ。僕はこういう上司達を見て絶対にこんな上司になるものかと心に決めた。

 ところがこうして誓ったものの気がつけばクソ上司どころか普通に上司にすらならなかったんだからなかなか笑えない話だ。結局は退職するまでずっと酒を注ぐ側にいたのだ。これはこれでいかがなものかとも思うが、それでも僕は後輩と酒を飲んでも偉そうにしたり欠点や短所を攻撃したりすることはなかったと思う。たまに酔ってくると

「お前なぁ、ちゃんと決められた日に書類出さんかぁ。だから叱られるねん」

「先輩もじゃないですか」

「いや、俺も叱られることもあるけど凌いだところもある。例えば提出せなアカンのを忘れてて時間ないときとかあるやろ。対処法があるねん。とりあえず書類できてなくても提出するんや」

「どうやって提出するんですか」

「書類添付せんと送信するねん」

「〇〇部長 添付し送信いたします。ご確認くださいって堂々と送信するんや。添付し忘れって誰でもあるミスやろ。やったことないやつなんておらん」

「添付ないぞ!!って言わるじゃないですか」

「え!そうでしたか!すみません。ただもうパソコンの前にいなくて・・明日でいいですか。そう言うたら部長もしゃーないなぁ。明日朝一でちょうだいな。ってなる。そしたら考える時間が延びるやないか。でも期限内には提出しようとしたわけやから忘れてたというわけじゃない。」

こんなことをしていたから酒を注ぐ側のままだったんだと思う。